タオ君

鮮やかな、愛の時間

07/23/2024

2022年6月12日のきろく(タオ8歳)

たおくんが、りんちゃんと一緒に虫取りをしてきて家に戻って、

ほんとうに嬉しそうな顔で、「すっっごく楽しかった。」と言うのを聞いて、胸がいっぱいになる。

 

りんちゃんは、たおくんにとって、はじめてママ以上に好きになった子だ。

ある日、まもなく8歳になろうとしているタオくんが急に、「ねえママ。ママの他に、誰か結婚するとしたら、誰がいい?」と訊いてきた。

これまでは、いつも「ママと結婚しよう」と言っていたタオくんが、初めて、ママ以外の誰かの話をした尊い時間だった。

 

これまで保育園のときから、クラスで好きな女子はいないのかと訊くたびに、憧れの男子の名前しか挙げてこなかったタオくん。

おもうに、タオくんは男の子も女の子も好きなんだとおもうけれど、世間的には男と女が結婚する、という枠におさまる相手がいなかった。

りんちゃんは、近所に住む年上の女の子で、男気に溢れてる。

クールで、虫が好きで、ひとりでその辺で遊んだりしていて、たおくんのことを気に入ってくれた。

 

何度も遊んで、学校に一緒に通うようになって、たおくんはりんちゃんに恋に落ちた。

わたしはそれが、すごく嬉しかった。

 

ひとが、誰かをただ好きになることや想うことは、この世界で最も豊かで素晴らしいことのうちのひとつだとおもう。

 

わたしたちは、誰しも、退屈な時間や面倒な時間の中に、なにか気を紛らわせられることはないかといつも、探してる。

たおくんもまた、ゲームに勤しんで、映画をみて涙を流し、やることはないかと時々ぶらっと外にでて、たまにはママに甘えて、アサガオの芽第一号を見て「可愛い!」と叫ぶ。

学校にいって疲れた様子で帰ったり、家でママの不安を一生懸命解消したりするのに疲れながら、初夏の夕暮れに見つけたりんちゃんのところに駆けていった。

一緒に遊ぶというよりは、黙々と虫取りをするりんちゃんのそばをうろちょろして、りんちゃんの背中を追いかけてついてゆき、たまに仲間に入れなくてしょんぼりして帰ってくるのだけど、

その日は、2人きりで時間いっぱいまで遊び、帰ってきて第一声「めっちゃ楽しかった」と大きな声でそう言った。

 

たおくんの虫嫌いや怖いきもちは、わたしよりもさらに上をゆく。2人で生活していると、いつもちいさな虫に右往左往したり、誰も退治できなくて泣きながら怖い思いをして過ごす。

りんちゃんに、虫が怖くない気持ちを教わっておいで。

とそういって、たおくんはりんちゃんの虫取りを、ただ見ていた、とそう言った。

 

一緒に捕まえたりしなくても、りんちゃんがそうしてるのを見るだけで、めっちゃ楽しかった。

とそう言った。

 

「ママ、今日とんぼの羽をはじめて触ったんだよ。ブルブルってして最初すごく怖かったけど、すごかったよ。」

 

そう言ったたおくんは、わたしと一緒に過ごしていたときには一度も見せなかった鮮やかで力強い喜びに満ちていた。

これまでずっと小さなころから優しくて勇気がでないタオくんの背中を押してきて、いつしかそれすらももうあまりしなくなった。

ニコイチだったわたしたちは、別々の存在になっていって、身体も大きくなってきたタオくんは、かわいい自分の息子というよりも、一番の友達みたいにどんどんスマートになっていって、

そんなタオくんには、りんちゃんがいてくれる。

 

 

わたしは、トンボの羽をブルブルしたのを触ったことがないけれど、夏の夕暮れに、好きな女の子とずっと2人きりで、時が止まったように楽しくて、汗ばむ日中の熱と、そして次第に涼やかな風が吹き始めるときのその時間

そんな経験を、ちいさな尊い時間を、鮮やかな愛の時間をそうして過ごししていることを思っただけで、なんだか本当に嬉しくてきもちが溢れてくる気がした。

 

わたしには、これまでタオくんがいてくれた。

これからのタオくんに、わたしだけじゃなくてそうして「大好きだ」と心が震わされるようなそんな時間が与えられていることが、今までの辛かったすべてを帳消しにしてゆくようだ。

 

ひとが、なにかを愛するきもちはただただ私の霞んだ心を打ってゆく。

自分の大切なひとたちが、そんな風に鮮やかな時間を日々過ごしてほしいとそう思う。

これまでずっと一緒に過ごしてきたたおくんが、まっすぐに誰かと一緒に過ごす時間を大切にできていることが、なによりの報いだ。

 

 

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