ちいかわが来てくれて、最後引越しのときに何かお祝いをもってきたいけど、なにがいいですかと訊かれた。
ちいかわは、一年ほど前にわたしのところに絵の管理と整理のためにアルバイトで来てくれていた人だ。とても久しぶりに向こうから連絡をくれた時期、引越しのことを相談できるひとが、ひとりもいなくなっていたタイミングだった。
自分から外に連絡やコンタクトが取れない自分は、常に孤独の中で生きていて、ふいにそうして声をかけてくれる人の存在だけで支えられている。
ちいかわはそして、辞めたときも、仕事を始めたときも、気にかけてくれてわたしに来られる曜日を教えてくれたりしていた。
静かで、優しくて、繊細で、自分と同じように苦しんでいることを知っていて、一緒にいて無理しなくていい存在は、とても稀有だったけれど、いつもどう助けてもらえばいいかわからなくてもがいた。
今回、誰にも応援してもらえない転居のことを、唯一何が起こっているのかを理解してくれたちいかわに、日々のことを話すたびに、その痛みも喜びも通じることは、これ以上ない安心をわたしに与えてくれた。
支援が途切れ、たった一人で、最も苦手な手続きや連絡を毎日毎日こなしてゆく日々は、あまりに大変で何度も挫けそうになったけれど、最後いろいろな話をしながら手伝ってくれるちいかわを、自分もまた一生懸命支えようと、たくさんの話をするたびに、自分の中の愛や元気がもう一度戻ってくるようだった。
辛くて長いこの時間が、本来は皆から祝福される門出であることを、ちいかわが教えてくれて、涙が出てきた。
人に話すたびに怪訝な顔をされてきたり、強く反対されるたびに、信じるものは自分しか居なくなり、その恐怖のトンネルをひたすらに抜ける間、この転機が本当の望みを叶えるものであることも、すっかり忘れてしまっていたし、誰にも祝ってもらえずにたった一人で出産をしたときのことを、頭の片隅に思い浮かべた。
「この最後の心細い時間を、誰にも言えずにひとりで抱えてきて、そんなときにちいかわが話を聞いてくれて、何が起こっているのか理解してくれて、暖かく応援してくれること
それだけで、それだけで十分なんだよ。
きてくれるだけで嬉しいよ。
ありがとう」
素直にたくさんの言葉が口から出てくるときに、文字通り自分が涙を浮かべて、どれほど独りで頑張ってきてるんだなとそう感じた。
誰にも頼れないと腹をくくり覚悟を決めて過ごす間にも、こうしてタイミングよく、ちいかわが声をかけてくれたことは、かみさまの計らいなんだとそう思う。
ちいかわには未来がある。そしてわたしにも未来があり、すこしだけちいかわよりも長く生きてきたわたしが、自分の人生をそのままちいかわに見せることで、彼女もまた苦しい時間を慰められて、希望を抱くとそう言った。
今日は朝からしんどい時間だったけれど、「今すぐ夢を叶える準備をして」というメッセージのカードと、ちいかわが来てくれたことで、タオくんもわたしも疲れの中がんばって、充実した日を過ごせた。
真っ暗で辛い時間の中では、たったひとりの自分が味方だった。
そして今この真っ暗と、明るいみらいの狭間を揺れる最後の時間に
ちいかわのような優しい小さなあかりが差し込んでくれたことを、嬉しくおもう。
そして、祝ってくれたことが、とても嬉しくて、この先もその時間をきっとわたしは忘れない。
またこれからも、ちいかわと一緒に絵本のことをやれたりできたら嬉しいな。
たったひとりで最後の旅立ちをしなくてはいけないと
そう思ってたから
タオくんとたった2人 ギリギリで
でもちいかわが応援してくれた。
ありがとう。
残り数日と、行ってからもきっと
落ち着くまで、がんばろう
自分の夢を叶える場所に
わたしは行くんだって。
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