真っ暗な中 過去の悪夢が戻ってくるような時間
その全てから、自由になるために
なにもかも、生きることすら手放して
誰もいないその場所に来たのに
わたしはなにかを間違ったんだろうかと、そう思うような心細い日々だった。
いつものタオ君はどこにもいなくて、いつかコミュニケーションが途絶えて連日パニックを起こした頃に戻ったみたいで、乗り越える方法がわからない。
普通の人にとってのストレスがかかる状況が
わたしたちには死を意味すること
助けを求めても、届かない時間にひたすら耐えること
そして曇りがかった空の隙間に見える星と、鳴り響く秋の虫の音に全身包まれて、わたしたちにはもう、どこにも帰る場所がないのだ。と思ったら涙がたくさん溢れた。
この苦しさや心細さを、理解してもらえない場所に、安心は存在していなくて
そういう意味でわたしには、世界中のどこを探しても帰る場所は今までとても少なかった。
帰る場所になりたかった人との同居の話は流れて、どこにも行くあては無くなって、そしてわたしは最後生きることをやめる代わりに、ずっと一緒にいたいと望んでいた潤の側にきた。
誰も、受け入れてくれなくとも、誰も、自分を知るひとがいなくとも、誰とも心を通わせることができなくとも、それでいて、本当は誰よりも支えや守ってくれるひとが必要な状況で、誰にも理解されぬまま
そんな孤独な場所に、わたしと同じように、潤はいつかたったひとりで住むことを決めて、そして周囲にちゃんと認められて生きてきたのだ。と思ったら、
ただそれだけで、十分な気がした。
自分の苦痛な毎日を潤はこれまで味わってきたんだと思い出すことは、今自分が潤の近くに来た意味を
一寸も違えずに間違いなく、だからわたしは来たんだったと
思い出せて、言葉にならない安堵だ。
どこにいても
地球の果ての最も遠い場所にいたとしても
その愛や、想いが変わらぬことは
きっと価値があって、そうしてわたしたちは生きてきたけど
わたしはそして、地獄のように苦しい想いをするたびに
潤に助けてほしいと思うんじゃなくて
同じ思いを潤がどこかでしていると
知ることができた。
今日そのことを思い出して、嬉しくて楽しいはずの始まりの日々が、真っ暗で怖いだけでたまらなく苦しい瞬間
そうだ、だからわたしはここに来たんじゃないかと
思い出した時間だった。
そしてこれからは、どれほど潤が苦しんでも会えないことに苦しまなくていい。どれほど自分が苦しんでも、行けないことに苦しまなくていい。
ただ、いつでも会える場所に居ることだけで、
それだけで本当にわたしは幸せなのだとそう感じる。
愛には本当にたくさんの形があって
わたしたちが思うような、甘くて楽しくてすてきな時間を共有する愛は、みんな欲しいし、わたしもいいなと思うけれど
誰にも理解されないそのことを
どこかで誰かが同じように生きていると
そのことだけで繋がれる愛があるのだということを
潤は苦しみを通してわたしに教え続けてくれた。
そしてきっと潤も、わたしと同じ想いでいたはずだ。
わたしたちはそして、日本で生きることを選び、外国で悠々と自由に生きるかわりに、産まれた国で苦しい時間を乗り越え続けることを選んだ。
そしてそれは、わたしたちがこの世界に愛を広げるための、大事な時間なのだと。
目と鼻の先にいる潤に、会えない時間も
きっとこの先毎日一緒にいられる日がきたら、この時間があったからこそと、それは愛の軌跡になるのだとわかる。
わたしたちは、ただ必死で生きている。
毎日死を覚悟しながら、そしてこの世界を生きることで繋がっている。
遠くて近く、近くて遠い。
わたしはわたしを生きている。
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